緊急時に迅速かつ適切に救急対応をするためには、正しい知識とスキルを身につけ、AEDのような緊急時に必要な用具があれば大丈夫でしょうか?
救急対応には、「ヒト」と「モノ」が円滑に機能するための体制(救護体制)が必要です。
スポーツ現場で救護体制を構築する上で鍵を握っているのがEAP(エマージェンシーアクションプラン: 緊急時対応計画)で、安全配慮義務を果たす上では特に注目されています。
今回は、EAPとEAPの作成方法について解説します。
EAPとは?
EAPは、緊急事態と判断されてからの救急対応で必要な情報が整理され、わかりやすくまとめられたものです。
ジンノウチ
EAPは一つ一つの緊急事態に対する手順を詳細に明文化されたマニュアルというのはよくある誤解の1つです。
「突然心停止のためのEAP」、「頭部外傷のためのEAP」、「落雷事故のためのEAP」というものではありません。
EAPはあくまでも、緊急事態と判断されてから必要な情報が記載されていて、緊急事態にEAPを見ながらでも適切に対応ができるようになるべく簡潔にまとめられていなければなりません。
突然心停止や頭部外傷など、1つ1つの緊急事態に対する手順に関しては、EAPではなく、「危機管理マニュアル」「安全マニュアル」の中に記載します。
EAP作成時の注意点
EAPを作成する上で注意しなければならないのは、いつ、誰がこのEAPを参考にするかです。
施設側が利用者に向けて作成しているのであれば、緊急時に対応する施設側のスタッフの一人一人の連絡先を載せる必要はありません。
緊急時に利用者が施設側と連絡をとるときに必要な連絡先を載せておきます。個人情報の開示には注意が必要です。
また、平日と休日、祝日、時間帯によっては緊急時に搬送する最寄りの病院は異なる場合があるので、必要に応じてEAPを作成しなければなりません。
緊急時に搬送する最寄りの病院だけではなく、同じ会場だったとしても練習や試合、イベント、スポーツなどが異なる場合、同じチームだったとしても、現場にいるスタッフなどが異なる場合には必要に応じてEAPを作り直す必要があります。
EAPの作成方法
ここからはEAPの作成方法について4つのステップで解説していきます。
EAPの作成 ステップ① 必要な情報の収集
EAP作成の1つ目のステップは、EAPを作成するのに必要な情報の収集です。
誰がEAPを作成するのか、誰にEAPを共有するかによってEAPに記載する情報は若干異なります。
今回はEAPには絶対に必要な情報だけを紹介させていただきます。
119番通報時に必要な情報
緊急時と判断され、救急車を要請する際に119番通報中に伝える情報をまずは収集します。
具体的には、
- 施設名/ 会場名
- 住所
- 目印
- 救急車/ 救急隊員のルート
「ヒト」 緊急時に対応する施設側・会場側・イベント側のスタッフの連絡先・待機場所
緊急時と判断したときには、1人でやるのではなく、誰かに助けを求めることが大切です。
助けを求めるのは、救急隊員だけではありません。
スポーツ現場で緊急時と判断された際には、「手当」「調達」「連絡」「誘導」の役割をする人がいます。
大会やイベントでは、ドクターや看護師などのメディカルスタッフ、アスレティックトレーナーなどの専門家がいる場合には救急対応をなるべく早く託すことによってより適切な救急対応が期待できます。
また、救護室などの待機場所を把握する必要があります。
緊急時に助けになるのは救護スタッフだけではありません。
施設側の運営スタッフや警備員などもスムーズにAEDなどを調達したり、救急車・救急隊員を誘導するには協力が必要です。
「モノ」 AEDなど救急対応に必要な設備や備品の位置
最寄りのAEDがどこにあるのか、車椅子はどこに保管されているのか、水道や製氷機はどこにあるのか、など緊急時に必要な「モノ」の場所を確認するようにしてください。
EAPの作成時ではありませんが、当日、到着したときには運動やスポーツをする前に必ずアクセス・電源などを確認するようにしてください。
最寄りの病院・搬送方法
緊急時であれば、ほとんどの場合、救急車で病院へ搬送されると思いますが、自家用車などで病院へ搬送する場合があるので、最寄りの病院も必ず確認するようにしてください。
救急病院、整形外科、脳神経外科、眼科、耳鼻科、形成外科などスポーツによって起こりやすいケガに適切な病院・専門医の情報を収集してください。
EAPの作成 ステップ② 緊急時アクションフローの作成
緊急時の救急対応に必要な「ヒト」と「モノ」の情報に加えて、119番通報と最寄りの病院などの救護体制に関する情報を収集した後は、実際に緊急時に誰がどのような役割を担うかの流れである緊急時アクションフローを作成します。
緊急時アクションフローでは、下記の3つのポイントが一目でわかるようにします。
- どのようにEAPを発動するかというEAPサイン
- EAPが発動されたら、誰がどのような役割を果たすのか
- どこに傷病者を搬送するのか
緊急時における救急対応の目標は、適切に手当をしながら、救急隊員などの専門家にいかに迅速に引渡し、医療機関へ搬送することです。
EAPの作成 ステップ③ 地図の作成
緊急時アクションフローを作成してから、ステップ①で収集した情報を元に、見取り図を作成していきます。
見取り図の中には、AEDなどの「モノ」や救護室だけではなく、階段や段差など搬送の障壁になるようなものもわかるようにします。
また、救急隊のルートも示すとわかりやすくなります。
EAPの作成 ステップ④ 必要項目の記入
EAP作成の最後のステップとして、緊急時に必要な情報を必要項目に記入していきます。
緊急時に連絡する必要のあるスタッフやスタッフの連絡先、救急車を要請する際に伝える住所、最寄りの病院の情報などです。
地図の上にもAEDの場所などを示していますが、緊急時の際に地図上ではすぐに見つからない可能性もあるので、文字でも記載しておきます。
EAP作成のまとめ
正直、今の時点で日本のスポーツ現場ではEAPが普及しているとは言えないのが現状です。
ただ、安全配慮義務、法的リスクなどを考慮すると絶対に必要になるのがEAPです。
事前に緊急時を想定して準備をしていたのかがとても重要になります。
訴訟が起こらなかったとしても、「事前に何かできたのではないか」と自問自答し、ご自身を責めることも考えられます。
「事前にできること」、それがEAPを作成し、適切に迅速に対応するための救護体制を構築することです。
もちろん、どのように緊急事態と判断するのか、胸骨圧迫やAEDの使い方などを学ぶことも必要です。
EAPを作成したとしても、作成したEAPを共有しなければ意味がありませんし、練習や試合の当日には道路を工事しているかもしれません。
EAPを作成したら必ず、作成したEAPが本当に機能するのかを検証し、練習や試合の当日には最終確認するようにしてください。