熱疲労とは、暑さの中で大量に汗をかき、脱水症状となり、体は体温を調節する機能が働かなくなり、深部体温が上がりさまざまな体調不良が起こります。

今回は、熱中症の1つである労作性熱射病について下記の内容を解説します。

  • 労作性熱射病になってしまう原因
  • 労作性熱射病になったときに現れる症状
  • 労作性熱射病の疑いがあるときの応急手当
  • 労作性熱射病にならないための予防法

ジンノウチ

熱中症には労作性熱射病を含めて4つの病態があります。

もし、熱中症の4つの病態について知らない方はぜひ下記の記事も併せて呼んでみてください。

労作性熱射病になってしまう原因

労作性熱射病になってしまう原因は、運動によって体が体温調節できなくなるほどの深部体温の上昇です。

労作性熱射病は、熱疲労とは違い、体温を調節する機能が働いていない状態のため、どんどん深部体温が上がっていきます。

ジンノウチ

熱疲労について詳しく下記の記事で解説していますので、ぜひ読んでみてください。

スポーツや運動中に体温を調節できないほどの深部体温が上昇してしまう原因には、下記があります。

  • 暑さの中で運動・スポーツ
  • 脱水(発汗量>水分補給)

かいた汗は蒸発することによって体温を下げることに貢献してくれますが、逆に言えば、蒸発しなければ体温を汗で下げることはできません。

暑さ(特に、湿度の高い環境)の中では、汗がうまく蒸発してくれません。

暑さの中でスポーツや運動で体を動かし汗をかき、水分補給が不十分になってしまうと、体内で深部体温を調節できる限界を越えてしまい、労作性熱射病になります。

労作性熱射病になったときに現れる症状

労作性熱射病は、熱中症の中でも最も重度な状態で、労作性熱射病の疑いがあるときには緊急事態と判断する必要があります。

暑さの中で労作性熱射病の疑いがあるときには迅速に対応することが求められるため、労作性熱射病をどのようなときに疑わなければならないのかを知るために、労作性熱射病になったときに現れる症状をしっかりと把握することが重要です。

労作性熱射病の症状は、深部体温の上昇と中枢神経障害に由来します。

深部体温の上昇

スポーツ現場で深部体温を正確に測定するためには、今の時点では直腸温で測定する方法しかありません。

直腸温の測定で深部体温が40℃以上になると熱射病と診断されます。

この深部体温が40℃以上の状態が続いてしまうと、多臓器不全へと進み、最悪の場合には死に至ります。

スポーツ現場で観察できる労作性熱射病の症状

深部体温を把握するための直腸温測定以外にスポーツ現場で観察できる労作性熱射病の症状は、以下の症状があります。

  • 中枢神経系障害
  • めまい
  • 疲労
  • 頭痛
  • 卒倒
  • 人格の変化
  • 脱水 など

中枢神経系障害である意識障害や人格の変化は、労作性熱射病の特徴の1つになります。

特に人格の変化は、行動や口調が乱暴になります。

また、認知や判断力も低下するため、普段であれば取らない行動をとる場合があります。

水泳などであれば、隣のレーンに行ってしまったり、球技スポーツであれば、相手チームのベンチやコート・フィールドなどに行ってしまう場合があります。

労作性熱射病の疑いがあるときの応急手当

暑さの中でスポーツや運動をしているときに労作性熱射病の疑いがあるときには、緊急事態と判断します。

救急車を要請し、AEDを調達します。

労作性熱射病の疑いがあるときの応急手当の国際的な原則は、「一に冷却、ニに搬送」です。

基本的には、スポーツ現場での緊急事態での救急対応としては、いかに迅速に医療機関へ搬送するかですが、労作性熱射病の場合には、いかに迅速に深部体温を39℃以下にできるかが、生きるか・死ぬかの分かれ道になります。

深部体温を30分以内に39℃以下に下げることができれば、労作性熱射病からは100%救命できると報告されています。

労作性熱射病の疑いがあり、30分以内に30℃以下に下げるためには、3つの冷却方法があります。

熱疲労の応急手当である首や脇の下、脚の付け根にある動脈をアイシングする動脈アイシングだけの冷却方法はこの3つの冷却方法には含まれていません。

この動脈アイシングだけで労作性熱射病の疑いがあるときに対応してしまうと、救命できません。労作性熱射病の疑いがあるときに救命できる3つの冷却方法は、下記の方法です。

  • 全身を氷水に浸す氷水浴
  • 水道水を全身にかける水道水散布法
  • 氷水に濡らしたタオルを全身に当てて、頻繁に取り換えるタオル冷却法

暑さの中でスポーツや運動をする場合には、必ず労作性熱射病の疑いがあるときに深部体温を下げる方法を確保するようにしてください。

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労作性熱射病の疑いがあるときに救命できる3つの冷却方法については、下記の記事で解説しています。

ぜひ、3つの冷却方法を確認してください。

労作性熱射病の疑いがあるときに深部体温を下げる場所を「ヒートデック」と呼びます。

労作性熱射病の疑いがあるときには、傷病者をこのヒートデックに運ぶ必要があります。

このヒートデックに傷病者を運ぶのにかかる時間も30分に含まれているので、なるべく早く労作性熱射病の疑いがあると判断し、ヒートデックへと傷病者を運ぶことが重要になります。

暑さの中でスポーツや運動をする前には、EAP(緊急時対応計画)を元にAEDと同様に、ヒートデックへの搬送方法や搬送時間、冷却方法については必ず確認するようにしてください。

ジンノウチ

EAPについてあまりわからないという方は下記の記事でEAPについて解説しているので、ぜひ読んでみてください。

労作性熱射病にならないための予防法

最後に労作性熱射病にならないための予防法について紹介していきます。

熱中症に関する教育

労作性熱射病に限らず、まずは選手自身が熱中症に関する基礎知識を学ぶ必要があります。

どのようなときに熱中症を疑う必要があるのか、どのような救急対応をしなければならないのかも重要ですが、労作性熱射病については、特に、熱中症になってしまったことがあれば1つのリスクになります。

熱中症の症状について知らない選手がいれば、熱中症になったことがないと言っている選手でも、実は熱中症の症状を知らなかっただけで、熱中症になったことがあったという選手は1人や2人だけではありません。

熱中症の既往歴については、熱中症に関する教育をしてからも、しっかりと確認するようにしてください。

基礎体力アップを含めた体調管理

労作性熱射病と熱疲労については、1回の練習や1日の練習だけではなく、3日間、1週間といった期間での体調管理にも注意しなければなりません。

1回の練習や1日の練習で脱水が1%であったとしても、1%の脱水が3日間、1週間と続いてしまうと、慢性的な脱水状態になるので注意が必要です。

また、責任感がある選手や負けず嫌いの選手などは無理をして、熱疲労や労作性熱射病になる場合があるため、注意が必要です。

基礎体力アップのためのトレーニング指導の際には、休息・リカバリーの重要性を理解してもらい、重要なのは鍛えるだけではないと認識してもらうことも重要です。

暑さに慣れる

暑さの中で運動やスポーツをする際には、特に体を暑さに慣れさせる暑熱順化がとても重要になります。

ただし、この暑熱順化をする期間である最初の5日間は熱中症のリスクが高いとされています。

10日から14日で暑熱順化してからも、体は汗をかきやすくなっているため、暑熱順化する前よりもさらに水分補給が重要になります。

暑熱順化したからと言って、水分補給しなくても熱中症にならないというわけではありません。

こまめに水分補給

1回の水分補給では、150-250mlが目安です。

がぶ飲みをしても、250ml超えると体内には吸収されないため、こまめに水分補給することが重要です。

スポーツや運動をしているときにこまめに水分補給するだけではなく、スポーツや運動前後の水分補給と食事も熱中症予防、高いパフォーマンス発揮のために注意しなければなりません。

労作性熱射病のまとめ

労作性熱射病は、体が体温を調節できなくなった病態で、緊急事態です。

体が体温を下げることができなくなったため、外から体温を下げる必要があります。30分以内に39℃以下に深部体温を下げることが生きるか・死ぬかの分かれ道です。

スポーツや運動をする前には、AEDがどこにあるかを確認するのと同様に、30分以内に深部体温を39℃以下に下げる冷却方法を確保するようにしてください。