横紋筋融解症とは、その名の通り、筋肉が溶けてしまう病態です。

横紋筋融解症は熱中症には含まれていませんが、熱中症である運動誘発性筋けいれんや熱射病の際には注意しなければならない病態の1つになります。

ジンノウチ

運動誘発性筋けいれんや熱射病を含めた熱中症の4つの病態については下記の記事で解説しているので、ぜひ読んでみてください。

何らかの原因で横紋筋融解症になると、筋肉が溶け、筋肉の成分であるミオグロビンというたんぱく質が血管の中に流れ込み、血管が詰まり、急性腎不全や多臓器不全、コンパートメント症候群など、命に関わる病変を引き起こします。

今回は、横紋筋融解症について下記の内容を解説します。

  • 横紋筋融解症になってしまう原因
  • 横紋筋融解症になったときに現れる症状
  • 横紋筋融解症の疑いがあるときの応急手当

横紋筋融解症になってしまう原因

横紋筋融解症は筋肉が溶けてしまう病態のため、さまざまな原因で起こります。

横紋筋融解症は、スポーツだけで起こるわけではありません。

今回の記事ではスポーツ以外の原因についても言及させていただきます。

激しい運動

強度が高すぎる運動、激しい運動は横紋筋融解症の原因となります。

特に、アメリカでは過度なウエイトトレーニング、ランニングドリルなどによって同時に複数名の選手が横紋筋融解症となり、救急搬送され、入院したというニュースが報道されています。

特に、練習最後の罰走については、横紋筋融解症だけではなく、労作性熱射病の原因となるので練習最後の罰走をするデメリットは大きすぎです。

日本においては、大会などの試合中にテニス選手が横紋筋融解症になって救急搬送されるケースも報告されています。

鎌状赤血球形質(Sickle Cell Trait)

黒人/ アフリカ系アメリカ人の12人に1人くらいがこの鎌状赤血球形質を持っていると言われ、鎌状赤血球形質を持っている人は横紋筋融解症になりやすくなります。

鎌状赤血球形質は、アフリカ系アメリカ人以外でも確率は低くなりますが、持っている可能性はあります。

この鎌状赤血球形質を持っている人は横紋筋融解症や労作性熱射病になるリスクが持っていない人の37倍とも言われています。

アメリカでアスレティックトレーナーとして活動していた際には、どの選手が鎌状赤血球形質を持っているかは必ず確認していたくらい、この鎌状赤血球形質については注意するようにしていました。

激しい衝突

横紋筋融解症は、交通事故や災害など、激しい衝突によって直接的に筋肉が壊されたり、圧迫されることによって起こります。

病気や感染、薬の毒性

興奮剤や非ステロイド性消炎鎮痛剤などの薬の服用や病気や感染などによって免疫力が低下している横紋筋融解症になりやすいと言われています。

また、過去に熱中症、特に熱射病になったことが既往歴のある人や家族の誰かが横紋筋融解症になったことがあるという家族歴のある人も横紋筋融解症になりやすいと言われているため、注意が必要です。

横紋筋融解症になったときに現れる症状

スポーツ現場などでわかる横紋筋融解症の典型的な2つの症状がおしっこの色の変化と広範囲な筋肉の痛みが徐々にひどくなり、痛みが引かないことです。

おしっこの色

おしっこの色が紅茶やコーラのような色になると横紋筋融解症を疑います。

体が脱水状態になると、おしっこの色は「濃い黄色から茶色っぽい色」に変化しますが、筋肉が壊され、ミオグロビンが血管内に溶け出すと、尿として排出されます。

尿にミオグロビンが含まれると、紅茶やコーラのような「濃い茶色から黒っぽい色」に変化します。

おしっこの色が変化するのは、筋肉の損傷や破壊が起こってから12時間から24時間後くらいになるので、本人だけではなく、保護者や家族に横紋筋融解症によるおしっこの色の変化についてはしっかりと伝えることが重要です。

広範囲な筋肉の痛みが徐々に悪化、痛みが引かない

横紋筋融解症は、筋肉が溶けることなので、壊された筋肉には痛みが発生し、筋力が低下し、腫れなども起きます。

通常の筋肉痛では、徐々に痛みは緩和していきますが、横紋筋融解症は、筋肉の痛みは徐々に悪化し、全然痛みが引きません。

また、運動誘発性筋けいれんのようにふくらはぎや太ももの裏側の筋肉がつる症状もあります。

一般的な運動誘発性筋けいれんの場合には、右足のふくらはぎだけだったり、左足の太もも裏側だけだったりしますが、横紋筋融解症の場合には広範囲になります。

つる部位が両脚のような広範囲の場合には横紋筋融解症の症状を疑う必要があります。

横紋筋融解症の疑いがあるときの応急手当

横紋筋融解症の疑いがあるときの応急手当として重要なのは、迅速に横紋筋融解症と診断され、治療されることです。

スポーツ現場で横紋筋融解症の疑いがあるときの応急手当としてできることは、なるべく早く横紋筋融解症の疑いに気付き、すぐに病院へ連れて行くことです。

横紋筋融解症と診断するには、病院での血液検査と尿検査が必要になります。

血液検査における指標の1つがクレアチンキナーゼ(CK)です。

このCKの値が基準値の10倍以上であると、横紋筋融解症の疑いがあります。

CKの基準値

女性: 32-180 IU/L

男性: 45-260 IU/L

注意しなければならないのは、このCKのあたいは運動をすることによって上がるため、このCKの値だけで判断することはできません。

医師によってCKと尿検査のミオグロビンの数値を参考に総合的に横紋筋融解症を診断します。

横紋筋融解症の診断・治療の遅れは、不整脈、高カリウム血症、急性腎不全などを引き起こし、命を危険にします。

横紋筋融解症の疑いがあるときには、すぐに横紋筋融解症の診断・治療ができるように病院へ連れて行ってください。