運動誘発性筋けいれんは、スポーツや運動中に脱水して電解質と水分のバランスが悪くなり、筋肉に痛みを伴う筋肉のけいれんです。

今回は、熱中症の1つである運動誘発性筋けいれんについて、

  • 運動誘発性筋けいれんになってしまう原因
  • 運動誘発性筋けいれんになったときに現れる症状
  • 運動誘発性筋けいれんの疑いがあるときの応急手当
  • 運動誘発性筋けいれんにならないための予防法

について解説します。

熱中症には運動誘発性筋けいれんを含めて4つの病態があります。

ジンノウチ

もし、熱中症の4つの病態について知らない方はぜひ下記の記事も併せて読んでみてください。

運動誘発性筋けいれんになってしまう原因

運動誘発性筋けいれんは、スポーツ医科学的にははっきり原因は明確にはなっていませんが、スポーツ・運動中の体内のナトリウム濃度の低下によって痛みを伴った筋肉のけいれんが起こると考えられています。

スポーツ中で発汗することによって水と塩分を失います。

しっかりと水と塩分を補給できていないと、ナトリウム濃度が低下してしまいます。

ナトリウム濃度の低下だけではなく、筋肉のアンバランスや神経系の問題、練習と試合との運動強度のギャップなど運動誘発性筋けいれんの問題は様々考えれています。さらに、スポーツや運動中の水分補給だけではなく、スポーツや運動前の水分補給、そして食事内容も運動誘発性筋けいれんは関わっています。

運動誘発性筋けいれんになったときに現れる症状

運動誘発性筋けいれんは、運動によって引き起こされる筋の痛みを伴うけいれんです。

運動誘発性筋けいれんがよく起こる代表的な筋肉は、2つ以上の関節に関与しています。

運動誘発性筋けいれんがよく起こる代表的な筋肉・部位
  • ふくらはぎ: 下腿三頭筋(腓腹筋・ヒラメ筋)
  • 太ももの裏側: ハムストリングス
  • 太ももの前側: 大腿直筋
  • 腹部: 腹直筋 など

運動誘発性筋けいれんは、筋肉がピクピクするような筋肉の収縮から力こぶのようにずっと筋肉が収縮して固まっている状態など様々です。

運動誘発性筋けいれんの疑いがあるときの応急手当

運動誘発性筋けいれんの疑いがあるときの応急手当は、電解質を伴う水分補給と筋けいれんが起こっている筋肉のストレッチです。

水分補給とストレッチ

水分補給だけではなく、塩分タブレットを食べさせたり、マグネシウムなどを含んだスプレーを直接、筋肉に振りかけてマッサージすることもあります。

サッカーや野球など屋外のスポーツであれば、水分補給をする際に、1回水分をべろの下に10秒から15秒くらい溜めて、吐き出してみてください。

ただし、芝などでは、芝の上にスポーツドリンクを吐き出したり、使用できないグラウンドもあるので注意が必要です。

べろの下には少しの量ですが、電解質を直接吸収できるので、普通に電解質を飲むよりも体内に早く吸収することができます。また、ストレッチの際には、なるべくリラックスできるようにゆっくりと鼻から吸い、口から吐くように呼吸をさせます。

緊張するとさらに、筋肉も緊張しやすくなり痛みが増してしまうので、呼吸で心をリラックスさせることも有効です。運動誘発性筋けいれんは、熱失神と同様に熱中症ではI度、軽度として分類されています。

ジンノウチ

熱失神については詳しい内容を知りたい方は、ぜひ下記の記事も併せて読んでみてください。

熱失神と同様に、運動誘発性筋けいれんは水分補給とストレッチなどの対応をすることによって比較的、早く症状は改善されます。

ジンノウチ

ふくらはぎが攣ってしまったときの具体的なストレッチ方法を下記の記事で解説しています。

ぜひ、読んでみてください!

運動誘発性筋けいれんの注意点

運動誘発性筋けいれんで注意しなければならないのが、けいれんしている部位や痛みが広範囲の場合です。

もし、けいれんする筋肉や痛みが両脚など広範囲の場合には、筋肉が溶けていく横紋筋融解症の疑いがあります。

この横紋筋融解症は、筋肉が溶けていく障害で、けいれんや痛みが広範囲という特徴と血尿を伴うという2つの特徴があります。

横紋筋融解症のこの2つの特徴のどちらかがある場合には、運動誘発性筋けいれんだけではなく、横紋筋融解症を疑う必要があります。

この横紋筋融解症は、緊急時だと判断してください

すぐに救急車を要請し、病院へと搬送します。固定などをする必要はないため、自家用車などで運んだ方が病院に到着するのが早い場合には、救急車ではなく、自家用車などで搬送するようにしてください。

症状が落ち着いた後のスポーツ・運動の再開について

運動誘発性筋けいれんは休息と水分補給、ストレッチによって比較的すぐに症状は改善されます。

プレーを再開できたとしても、応急手当で補給した電解質が体内に吸収されるまでには時間がかかるため、すぐに同じ部位や別の部位をつってしまう可能性が高くなります。

夏休みなど練習や試合が2部制の場合で、午前中にふくらはぎをつってしまった場合には、しっかりと水分補給と昼ごはんを食べてから、午後の練習や試合にはいつも以上に水分補給に気をつけて練習や試合には参加してください。

運動誘発性筋けいれんにならないための予防法

最後に運動誘発性筋けいれんにならないための予防法について紹介していきます。

ただし、運動誘発性筋けいれんの原因は未だにスポーツ医科学では解明されていないため、ここで紹介する予防策をしっかりしていたとしても起こる可能性はあります。

また、心理的なストレスの影響も考えられるため、個々の選手へのアプローチ、スポーツの練習や試合だけではなく、私生活での選手個々の状況も考慮しなければなりません。

熱中症に関する教育

運動誘発性筋けいれんに限らず、まずは選手自身が熱中症に関する基礎知識を学ぶことが大切です。

あなたが保護者、または指導者であれば、ぜひお子さんや選手たちにこの「暑熱サイエンス」を紹介して、一緒に記事を読んでみてください。

もしくは、あなたが「暑熱サイエンス」で学んだことを教えてあげてください。

運動誘発性筋けいれんに関して言えば、「スポーツや運動中の水分補給だけではなく、スポーツや運動前の水分補給や食事の重要性」を伝えることは大切です。しっかりと発汗によって失った水分と電解質の補給が運動誘発性筋けいれん予防の鍵です。

基礎体力アップを含めた体調管理

睡眠不足や朝食を食べていないというのは熱中症になるリスクを高めます。

睡眠や食事だけではなく、基礎体力が低いと熱中症になりやすいと言われています。また、チーム内で「強い」選手が試合のみで運動誘発性筋けいれんが起こる場合には、練習中の強度が「強い」選手にとっては低く設定されてしまっていることが原因になっていることも考えられます。

身体を暑さに慣れる

残念ながら、正しい知識を持ち、しっかりと体調管理や水分補給をしていたとしても、身体が暑さに慣れていないと熱中症になってしまいます。

身体を暑さに慣れるためには暑熱順化をする必要があります。

暑熱順化に必要な期間は10日から14日程度と言われています。

ちなみに、スポーツや運動をしていない一般の方で非労作性熱中症を予防するには、だいたい暑熱順化に必要な期間は5日間です。

この暑熱順化期間の5日間は、熱中症になりやすいと言われているので注意が必要です。

また、暑熱順化ができた状態になると、汗がかきやすくなるため、補給する水分の量は暑熱順化の前よりも多く摂取する必要がある点については注意が必要です。

こまめな水分補給

汗をかいて電解質を含む水分補給が十分にできていないと体内の水と電解質のバランスが崩れてしまいます。

1回の水分補給で体内に吸収される水分の量は200-250mlと言われているため、1回1回多くの水分補給をするのではなく、こまめに水分補給することが重要です。

このこまめの水分補給の目安は15分から20分に1回です。

運動誘発性筋けいれんのまとめ

運動誘発性筋けいれんは、未だに解明されていませんが、スポーツ・運動中の体内のナトリウム濃度の低下によって痛みを伴った筋肉のけいれんが起こる病態と考えられています。

運動誘発性筋けいれんになってしまった場合には、電解質を含んだ水分補給とストレッチが大切です。もし、血尿やけいれん・痛みが広範囲の場合には横紋筋融解症を疑い、緊急時と判断し、迅速に病院へ搬送してください。