熱失神は、夏などの暑い環境下で起こるめまいや立ちくらみです。
小学校など朝の朝礼で校長先生が長い話をしていて、低学年の女の子が前の方で体調が悪くなったり、立っていられずに座ってしまうのを見た覚えがあるのではないでしょうか。
また、強度の高い運動を急に終わって立ち止まっていたり、マラソンなど長い距離を走った後にゴール付近で立ち止まったりすると、急に座り込む選手をテレビなどで見たことがあるかもしれません。
上記の2つの例が熱失神の代表例です。
熱失神ではありませんが、長い時間、横になっていたり、座っていた状態から急に突然立ち上がったときにめまいや立ちくらみをしたことがあるかもしれません。
このようにめまいや立ちくらみは、急に脳への血液の量が減ってしまうことによって起こってしまい、ひどい場合には意識を失う(失神)ことがあります。
今回は、熱中症の1つである熱失神について、
- 熱失神になってしまう原因
- 熱失神になったときに現れる症状
- 熱失神の疑いがあるときの応急手当
- 熱失神にならないための予防法
について解説します。
ジンノウチ
熱中症には熱失神を含めて4つの病態があります。
もし、熱中症の4つの病態について知らない方はぜひ下記の記事も併せて読んでみてください。
熱失神になってしまう原因
熱失神になってしまう原因は、急に脳への血液の量が減ってしまうことです。
長時間、同じ姿勢でいたり、急に立ち止まることによって、下半身から心臓や脳へ戻ってくる血液量が減ることによって起こります。
また、マラソンなど長時間走ったり、強度の高いランニングやスプリントトレーニングをしていると、深部体温を下げるために、汗を効率よくかく必要があります。
汗を効率よくかくためには、に皮膚に近い部分の血管を広げて、皮膚の近くの血液量が増えます。
さらに、スポーツ・運動中など、水分補給が不十分な場合には、血液も水分を含めているため、絶対的な血液の量が少なくなっている状態です。
熱失神になったときに現れる症状
急に脳へ供給される血流量が減ってしまうと熱失神になり、下記のような症状が現れます。
- めまい
- 視野が狭くなる(視野狭窄)
- 頭がクラクラする
- 立ちくらみ
- フラフラする
- 意識を失う
このような症状が現れた場合には、すぐに「熱失神だ!」と決めつけないようにしてください。
このような症状が現れるのは、熱失神だけでも、熱中症だけでもありません。
熱中症には、熱失神以外に、運動誘発性筋けいれん、熱疲労、熱射病があります。
熱中症以外にも、心臓や頭部に異常がある場合にも上記のような症状が現れます。
緊急事態かどうかを判断するために、安全を確保してから、まずは「意識があるかどうか」「呼吸が普段通りかどうか」を確認するようにしてください。
もし、「意識があるのかどうなのか」「呼吸が普段通りなのかどうなのか」わからないときには、最悪のことを想定して、救急車を要請したり、周りの人に助けてもらいましょう。
熱失神の疑いがあるときの応急手当
「最悪のことを想定して、救急車を要請しましょう」と驚かれた方もいらっしゃるかもしれませんが、ほとんどの熱失神は、ちょっとしためまいや立ちくらみだけで、意識や呼吸に問題はありません。
意識や呼吸に問題がある場合には、熱失神ではなく、心臓や頭部の異常など緊急事態と判断しなければならないので、今回の記事では、意識や呼吸に問題はなく、ちょっとしためまいや立ちくらみがある場合の応急手当の方法を紹介します。
AEDをすぐに開けるように準備
ジンノウチ
ちょっとしためまいや立ちくらみがある熱失神でも、完全に心臓や頭部の異常を否定することはできないので、私の場合は、万が一のためにAEDをすぐに開けるように準備しています。
日陰や涼しい場所に移動する
熱失神の対応でまず大切になるのが、日陰やクーラーが効いた室内で休ませることです。
移動方法は、布担架や車椅子などがありますが、これらの搬送器具を取りに行って、戻ってくる時間を考慮すると、自分で歩けるのであれば、手を貸してあげて歩いてもらっても構いません。
また、小さな子どもであれば大人がおんぶをしてあげたり、搬送器具を使わずに2人や3人で搬送する方法もあります。
足を心臓より高く挙げる(挙上する)
涼しい場所に移動させたら、まずは仰向けに寝てもらい、椅子などを使って足を心臓より高く挙げるようにしてください。
脳へ供給される血液の量が減ってしまうことで熱失神は起こります。
心臓より足を高く挙げることで、物理的に足にある血液が心臓へと戻るのを助けます。
可能であれば水分補給
涼しい場所に移動して、足を挙上しながら寝ていると、熱失神の症状は和らいできます。
水分補給が不十分で熱失神が起こってしまった場合が多くあるので、可能であれば水分を補給させてください。
服装を緩める
熱失神の応急手当としては、上記3つの手当が優先的に行いますが、話をしているときや足を挙上するときなど、同時に服やシューズ、ソックスなどの体への圧迫を緩めることも症状を和らぐことになります。
また、アメリカンフットボールなど、ヘルメットやショルダーパッドなど競技に関連する防具を外すことも大切です。
身体を冷やす(アイシング)
服装を緩めると同時に、身体を冷やすことも有効です。
熱失神だけではなく、熱中症は体温調整が十分にできていない状況なので、外部から氷嚢などでアイシングをすることも重要です。
熱中症のリスクがある環境でスポーツや運動をする場合には、すぐにアイシングができるように準備しておくことも大切です。
扇風機などを利用して風を当てる
日陰や涼しい場所に移動して、アイシングをした後はさらに外部から体を冷やすために風を利用することも有効な手段の1つです。
室内であれば、扇風機を利用するのがいいですが、木陰やテントの中などでは団扇やタオルなどを利用して風を当てるようにしてください。
10分から15分の応急手当をして改善されない場合
ほとんどの熱失神は上記に書かれている応急手当をすることによって5分くらいで症状は改善し、10分くらいでは症状はなくなります。
10分から15分くらい上記の応急手当をしても症状が改善されない場合には、緊急時と判断するようにしてください。
また、応急手当をしているときに悪化する場合にも緊急時と判断して、救急車を要請します。
症状が落ち着いた後のスポーツ・運動の再開について
熱失神は応急手当を適切に実施できれば、比較的すぐに症状はなくなります。
ジンノウチ
症状がなくなると、スポーツや運動を再開しようとする選手や指導者もいますが、私の場合は、熱中症になってしまった日のスポーツや運動は中止です。
熱失神に限らず、熱中症になってしまったら、その日の熱中症になるリスクは高まります。
さらに、次の熱中症は重度の高い熱中症になる可能性が高くなると言われています。
熱失神よりも重度の高い熱中症に含まれるのが、熱疲労と熱射病です。
熱失神であれば、翌日は注意は必要ですが、強度や時間などを変更する必要はありません。
ただし、熱疲労や熱射病の場合には、翌日だけではなく、1週間から2週間くらいは少なくともスポーツや運動の強度や時間を徐々に戻していく必要があります。
熱失神にならないための予防法
最後に熱失神にならないようにするための予防法について紹介していきます。
熱中症に関する教育
熱失神に限らず、まずは選手自身が熱中症に関する基礎知識を学ぶことが大切です。
あなたが保護者、または指導者であれば、ぜひお子さんや選手たちにこの「暑熱サイエンス」を紹介して、一緒に記事を読んでみてください。
もしくは、あなたが「暑熱サイエンス」で学んだことを教えてあげてください。
熱失神に関して言えば、「急に立ち止まらない!」ということは重要です。
しっかりと足から血液を心臓に戻すことが熱失神予防の鍵です。
基礎体力アップを含めた体調管理
睡眠不足や朝食を食べていないというのは熱中症になるリスクを高めます。
睡眠や食事だけではなく、基礎体力が低いと熱中症になりやすいと言われています。
身体を暑さに慣れる
残念ながら、正しい知識を持ち、しっかりと体調管理をしていたとしても、身体が暑さに慣れていないと熱中症になってしまいます。
身体を暑さに慣れるための暑熱順化をする必要があります。
身体が暑さに慣れるには、10日から14日くらいかかります。
さらに、この暑熱順化期間の最初の5日間は熱中症になりやすいと言われています。
暑さに慣れると聞くと、暑さの中で強度の高いトレーニングをする必要があると思うかもしれませんが、最初は強度を下げ、休憩を頻繁かつ長めに取ります。涼しい時間帯に練習をすることも含まれます。
そして、徐々に運動の強度を上げながら、時間も伸ばしていきます。
さらに、この暑熱順化は、トレーニングの時間帯や強度、時間を調整するだけではなく、お風呂やサウナなどで汗をかくことも含まれます。
こまめな水分補給
汗をかいて十分に水分補給ができていないと体内の水分量が減り、血液の量も減ってしまいます。
水分補給はスポーツや運動中だけではありません。
スポーツや運動前から水分補給は始まっています。
そして、水分補給は食事からも摂取していることを忘れてはいけません。
1回の水分補給で体内に吸収される水分の量は200-250mlと言われています。
こまめに水分補給することが重要です。
熱失神のまとめ
熱失神は、急に脳へ送られる血液量が減ることによってめまいや立ちくらみが起こる病態です。
熱失神になってしまったときに適切かつ迅速に熱失神と疑い、対応できるように準備することが大切です。
熱失神の予防法は、暑い環境の中でパフォーマンスが発揮できるようにするための暑熱対策と同じです。
高いパフォーマンスを発揮するための取り組みをすることによって、熱失神の予防も同時にできます!