スポーツや運動など体を動かして深部体温をコントロールできずに体温が上昇し、中枢神経の機能低下が起こることを労作性熱射病と呼びます。

熱中症は、スポーツや運動など体を動かして起こる労作性熱中症と夏場に室内で座っていたり、横になっていたりするだけで起こる非労作性熱中症の2つに分類されています。

ジンノウチ

労作性熱中症には労作性熱射病を含めた4つの病態があります。

労作性熱中症の4つの病態について知らない方はぜひ下記の記事を読んでみてください。

よくテレビのニュースで報道されている家の中で高齢者の方が熱中症で倒れて、病院へと救急搬送されたが、残念ながら亡くなってしまったケースは、非労作性熱中症です。

今回の記事で紹介する命を守るための3つの身体冷却法は、スポーツや運動などで起こる労作性熱射病への対応です。

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注意していただきたいのが、労作性熱射病と非労作性熱射病への対応は、体内で起こっているメカニズム・病態が違うため異なるという点です。

労作性熱射病の原因・症状・救急対応・予防については、下記の記事で詳しく解説しています。

労作性熱射病への身体冷却法の判断基準

労作性熱射病から命を守るための3つの身体冷却法は、

  • 全身を氷水に浸す氷水浴
  • 水道水を全身にかける水道水散布法
  • 氷水に濡らしたタオルを全身に当てて、頻繁に取り換えるタオル冷却法

1つずつの身体冷却法を紹介する前に、労作性熱射病への身体冷却法を選択するための判断基準を紹介させていただきます。

まず重要になってくるのが、30分以内に深部体温を39℃以下に下げることが可能な冷却方法を選択する必要があります。

この30分以内に深部体温を39℃以下に下げられることが可能なのかどうかを判断するには、1分間に何℃の深部体温を下げることができるかの率を示した「深部体温低下率」で判断する必要があります。

この深部体温低下率で30分以内に深部体温を39℃以下に下げることができる冷却方法が上記の3つの方法になります。

よく言われている熱中症のためのアイシング方法である氷を入れたアイスパックや氷嚢を首や脇の下、脚の付け根などの太い血管に当てる方法(動脈アイシング)は、不十分です。

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動脈アイシングは、単独では不十分ですが、やってはいけないというわけではありません。

上記の3つの方法、特に水道水散布法とタオル冷却法を選択して、アイシングする場合には、動脈アイシングも同時にやるようにしてください!

もう1つ労作性熱射病への身体冷却法を判断する際の基準として考慮していただきたいのが、熱射病を疑ってから何分後に冷却を開始できるかという点です。

39℃以下に深部体温を30分以内に下げるというのは、あくまでも労作性熱射病になってから30分以内です。

熱射病を発症してから冷却するのに時間がかかった場合には、より高い深部体温低下率の冷却方法を選択する必要があります。

国際的には、労作性熱射病の救急対応のゴールドスタンダードは深部体温を測定しながら、全身に氷水を浸す冷却方法です。

この救急対応のゴールドスタンダードでの救命率はなんと、100%です。

医師がいて、深部体温を測定できる体制が整っているスポーツ現場では、このゴールドスタンダードが採用されますが、深部体温を測定できる医師がいない場合には、深部体温を測定できません。

深部体温を測定することはできませんが、「寒い」というまで冷却すると、2019年に日本スポーツ協会が発行している「スポーツ活動の熱中症予防ガイドブック」には明記されています

日本スポーツ協会が労作性熱射病の疑いがある時の身体冷却法-応急処置編-を動画で作成し、公開していますので、動画で学びたい方はぜひ下記の動画を視聴してみてください。

JSPO -日本スポーツ協会- 【スポーツ活動中の熱中症予防】 ch.5 身体冷却法 -応急処置編-

氷水浴で労作性熱射病の救急対応

この氷水に全身を浸す氷水浴が労作性熱射病の疑いがあるときに、深部体温を下げる深部体温低下率が高く、最も効果的な身体冷却方法です。

氷水の水温は、可能であれば15℃以下になるように設定してください。

服を脱がす必要はなく、複数人で役割分担をして傷病者を取り囲み、全身を氷水に浸して冷却します。

まず重要になるのが、全身を氷水に浸しても溺れないようにすることです。

タオルやシーツなどを利用して必ず溺れないようにする担当者を配置するようにしてください。

常に声掛けなどをして、意識を確認するようにしてください。

身体は体温をコントロールできないため、体温は高く、体に当たっている水がぬるくなってしまうので、必ず常に体に冷たい水があたるように体付近の氷水をかき混ぜるようにしてください。

水道水散布法で労作性熱射病の救急対応

水道につないだホースで顔以外の全身(体幹・上肢・下肢)に水道水をかけ続けるのが水道水散布法です。

深部体温を下げるためにはなるべく全身を冷やすのが鍵となります。

救急対応をしているときには、必ず常に声かけをして意識を確認するようにしてください。

シューズや靴下を履いている場合には、脱がすようにしてください。

また、仰向けにするときには、頭をぶつけないように注意しながら、水道水散布法で冷却しているときには、タオルなどで頭部を保護するようにしてください。

全身にかけている水道水の水温が高い場合には、深部体温冷却率は低くなってしまうので、体の上に氷を置いたり、動脈アイシングなどを併用してなるべく早く深部体温が下がるようにしてください。

もし、室外で使用できる扇風機があれば、併用するようにしてください。

タオル冷却法で労作性熱射病の救急対応

最後に紹介するのが、氷水で濡らしたタオルを全身に当てるタオル冷却法です。

このタオル冷却法に関しては、冷房の効いた場所で扇風機を当てながら体を冷却するようにしてください。

冷房を最強にした部屋に収容し、氷水を洗面器やバケツに貯めて、バスタオルのような大きなタオルをたくさん用意します。

少なくとも6つのタオルが必要です。

氷水で濡らしたタオルを頭と首、胴体、右腕、左腕、右脚、左脚にそれぞれ当てるようにしてください。

水道水散布法でも触れましたが、深部体温を下げるためにはなるべく冷やす面積を全面になるようにすることが重要です。

氷水で濡らしたタオルを労作性熱射病の人に当てるとすぐに濡れてしまうので、氷水に濡らすのと、氷水で濡らしたタオルを体に当てて取り換えることを頻繁にするようにしてください。

1人でこの作業をするのはとても大変になる程、頻繁に取り換える必要があるので、複数人で対応するようにしてください。

労作性熱射病から命を守るための3つの身体冷却法のまとめ

今回の記事では、労作性熱射病から命を守るための3つの身体冷却法について紹介しました。

スポーツ現場で労作性熱射病の疑いがあってから、どのように体を冷却するかを考えて、実行しても間に合わない可能性があります。

突然心停止のためにAEDのアクセスを事前に確認するように、労作性熱射病の救急対応としてどのように深部体温を下げられるかを事前に確認し、確保することが命を守るためには必要です。

動脈アイシングや扇風機、涼しい場所への移動など、単体としては労作性熱射病の救急対応としては不十分ですが、水道水散布法やタオル冷却法と併用することはとても有効です。

ぜひ、スポーツや運動をする前には、労作性熱射病の疑いがあるときの身体冷却法を確保するようにしてください!